2012年4月19日木曜日

「生き残るための3つの取引」 この映画の結末は日本人には読めない~新作評⑰|CinemaNavi21



今日、久しぶりに用事でミニシアターのある大都市に出掛けたので、最寄りのシネコンで上映していない作品を観ることにした。
本命のアカデミー賞4部門ノミネート作品「キッズ・オールライト」(2010年)を観ようとしたけれど、時間が合わなくて、昨年10月に韓国で公開され、大ヒットした「生き残るための3つの取引」(2010年)を観た。
見応えのある作品という意味では正解だったが、この選択で、アカデミー賞作品賞ノミネートの全作品の鑑賞は、極めて困難になった。

日本では作れない、アジアでは韓国が圧倒的にリードしている「クライム・サスペンス」の極北的な作品が、また誕生したという印象だ。
リュ・スンワン監督は、本作品で� ��韓国の監督が投票権を持つ「ディレクターズ・カット・アワード」の監督賞を獲得。
脚本を担当したパク・フンジョンは、3月6日付け「新作評③」で取り上げた「悪魔を見た」(2010年)も手掛けたようだが、なぜか同作品の公式サイトには、そのクレジットがない。彼が、クライム・サスペンスの脚本づくりを得意とすることは、この2つの作品を観れば分かるが、今回は、ラストで才気に走り過ぎたと思う。

タイトルにある「3つの取引」とは何か。
公式サイトで見ることができる予告編は、なぜかミスをしている。
「取引①犯人捏造」、「取引②検事買収」…の2つは出てくるが、取引③の表示がないのだ。
公式サイトの記事には、3つの取引を説明す� �記事があるので、それを基に、併せて主要キャストと取引の場所の紹介も済ませると、以下のとおりだ。

取引①「犯人捏造」…警察庁の上司から、女児連続殺人事件の犯人のでっち上げを命じられる広域捜査隊のエースであるチェ・チョルギ(ファン・ジョンミン)。彼は、その裏工作を、本来の捜査対象であった新興建設会社社長チャン・ソック(ユ・へジン)に頼む。その取引の場所は、チャン社長が落札した建設中の高層ビルの屋上だ。

取引②「証拠隠滅」…裏組織のボスの顔も持つチャン社長は、手下と共に、チェがターゲットとした男の証拠づくりを行う。その男に犯人役を押し付ける場所は、ゴミ処理場だ。実際に、悪臭とメタンガスが蔓延する釜山の処理場でロケしたとのことだ。

取引③「検事買収」…犯人のでっち上げを疑う検事チュ・ヤン(リュ・スンボム)の追及を逃れるため、チェは検事の汚職の証拠をつかみ、取引する。その取引の場所は、人通りが多いオープンカフェだ。

ビルの屋上が取引の場所として使われ、そのビルのエレベーターがクライマックスでの犯行の現場となったり、ラストシーンがソウルのビル群の上に広がる青空であるのは、4月25日付け「旧作評⑥」で紹介した「インファナル・アフェア」(2002年)を連想させる。
そして、主役の3人の関係は、こんな簡単に説明できるものではなく、もっと複雑に絡み合っており、脇役と思った人物が、最後に重要な役割を担うなど、とにかく一筋縄ではいかない作品だ。


本当にエミリーローズの悪魔払いに何が起こるか

あまりに速い展開で進むため、ストーリーを紹介することは容易でないが、ラスト20分の衝撃は明かすことなく、できる限りポイントは押さえて行きたい。
一番重要な点は、背景に、日本以上の学歴社会、コネ社会、そして官民の癒着という韓国が抱える大きな問題があり、そのことが事件の発端よりも、結末に大きな影を落とすことだ。
前にも触れたが、韓国映画で描かれる警察の無能ぶりは、驚くばかりだが、今回は警察と検察の不正が、正面から描かれており、本作品の公開前に、「検事とスポンサー事件」というスキャンダルが、実際に発覚したとのことだ。

映画は、キム・ナリちゃんの遺体が発見� �れたというテレビの報道で始まる。警察は100人体制で、バラバラにされた遺体の残部を捜しているという。
女児連続殺人事件で高まる社会不安を重く見た大統領が、捜査本部を訪れ、早期解決を警察庁長官に求める。このパフォーマンスは、実際にあったことのようだ。

刑事たちに追われて逃げる男。どうやら最有力の容疑者のようだ。その男が、誤って刑事に射殺される。
この大失態による警察の威信失墜を回避するための方策について、オム・チュンソン警察庁長官は、腹心のカン局長(マ・ドンソク)に相談する。カン局長は、適任者がいると答える。
2010年5月10日、こうして韓国警察庁は、犯人捏造に向かって走り出す。

カン局長が適任者だと考えている広域捜査班の班長チェ・チョルギは、不正取 引捜査のため、チャン・ソック社長の許へ行っている。
一方、野心家の若手検事チュ・ヤンは、大手不動産会社のキム会長の取調べを行っているが、その遣り取りを別室で聞くことができる隠しマイクのスウィッチを切る。検事の新居は、会長が世話したようで、どうやら2人の間には、不正な取引が成立しているようだ。
そして会長は、捜査の手を自分に伸ばしているチェ班長のことを嫌っているようで、何とかならないかと、チュ検事に持ちかける。
後のシーンで判明するが、会長が取調べを受けている間に入札が行われ、チャン社長が漁夫の利を得たことが許せないのだ。
ここまででスタートから約10分。映画の鍵を握る男たちが出揃う。

全州北部警察署の庁舎跡を使われた警察庁では、チェ班長の後輩パクがチ� �ム長に昇進する内示を受け、叩き上げの刑事の不満が高まる。
パクのような警察大学出身者が幹部職を独占し、庁内は2つのグループに分裂し、一触即発の事態となるところを、叩き上げグループのリーダーと目されているチェ班長が、不満分子を抑え込む。
しかし、彼にも大きな弱点があることが、そのとき判明する。


映画のレビュー、骨折

チェ班長には理髪店を営む妹がいるが、その夫、つまり義理の弟が、遊び人で、彼の捜査対象であるチャン社長から金銭を受け取っていたことが判明し、監察の取調べを受け、身分証を取り上げられる。
一方、チュ検事も、キム会長の依頼に応えるべく、部下のコン捜査官(チョン・マンシク)にチェ班長のことを調べさせる。
これも後のシーンで分かるが、チュ検事の妻の父親は検察庁の高官のようで、そのコネで今のポストを得て、出世も約束されている。カン局長とも長い付き合いがあるようだ。
余談だが、コン捜査官は狂言回し的な役で、渡辺いっけいに似ていると感じた。

昼間から居酒屋で、チェ班長と彼を慕う5人の刑事 が飲んでいるところへ、雨の中をカン局長がやってくる。
監察の取調べを止めさせ、パクの辞令も保留させる代わりに、女児連続殺人事件の犯人をでっち上げる役目をチェ班長に命じるためだ。生きている状態で犯人を逮捕するのが、絶対条件だった。
この指名を受けたチェ班長の「ツテも、コネもない俺が」と言う台詞が、映画の最後に大きな意味を持つことまでは予想できなかった。(ここまでで20分)

また、チュ検事の方も、スタンドプレイ的な動きが上司の部長検事の知るところとなり、チェ班長の身辺を調べるのにストップを掛けられる。大統領の命を受けて、チェ班長が女児連続殺人事件の捜査主任となったからだ。

刑事に射殺されたユ・ミンチョル以外の容疑者にはアリバイがあったが、捜査本部の� �にバラ撒かれた捜査資料の中から、チェ班長は、類似事件の犯歴があり、アリバイを証明しているのが精神疾患のある妻だけのイ・ドンソクをターゲットとし選び出す。

この後、チュ検事とキム会長が会食するシーンがあるが、取調室の方がまだ対等の関係に見えた2人だったが、ここでは完全にチュ検事が高圧的な態度だ。
同様に、チェ班長とチャン社長、チェ班長とチュ検事との力関係も、当初のシーンではチェ班長の方が優位に立っていたものが、後半では逆転する。

そして、最初に整理した3つの取引の第1の場所、チャン社長が建設を手掛けている33階建ての高層ビルの屋上のシーンとなる。
チェ班長がチャン社長に渡した封筒の中には、イ・ドンソクの資料が入っている。彼を犯人に仕立てるための 工作の期限は3日だ。

5月13日の午後2時31分、イ・ドンソクは、見知らぬ男たちによりゴミ処理場に拉致される。
そこには、チャン社長が待っていた。彼の手下の中にはカメラで撮影している者もいる。
3つの取引の第2の場所だ。
ドンソクは付け指をしていることが、この場面で分かる。
チャン社長は、韓国の刑法(第10条第1項)では、犯人であることを認めても、心神喪失者は死刑にならないと教える。(日本映画でも、堤真一が犯人を演じた「39 刑法第三十九条」(1999年)という映画がありましたね)そして、妻と娘が生活に困らないようにと、1億ウォンが入金された通帳を見せる。(45分)


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次は、イ・ドンソクの逮捕シーンだ。
彼が、8年前に9歳の女の子に乱暴して懲役12年の刑を受け、6年で出所したことをテレビが伝える。
チェ班長が彼を取り調べているところへ、誰かから電話が入り、セジュ・カントリークラブで事件が起きると伝えられる。
そのゴルフ場では、チュ検事が、キム会長とゴルフを楽しんでいる。
彼らがショットを打とうする前を、謎の男が草刈り機で横切る。そして、その男は、検事の前で会長を刺殺し、平然と逃げ去る。
5月14日の午後9時40分に会長が死亡とのクレジットが入る。

そして、この次のシーンで、検察庁の自分の執務室にいるチュ検事に郵便物が届くが、その中には、キム会長と一緒にゴルフをし� ��り、会食している写真が入っていた。
それを送りつけたのがチャン社長であったことは、後で分かる。(60分弱)

5月16日、イ・ドンソクは、警察庁から送検され、部長検事は、担当としてチュ検事を指名する。
30万ウォンの報酬を貰うだけなので、やる気のない国選弁護士の話で、イ・ドンソクは、事態がチャン社長の言ったことと違うのにようやく気づく。

さらに、チュ検事が妻と共に、韓国のセレブ層のパーティに出席し、義理の父親と話すシーンがあった後、彼は、ギブ・アンド・テイクの関係にあるキム記者にキーセンの女性を侍らせ、賄賂として高級腕時計を渡して、警察による犯人捏造疑惑のリーク記事を書くことを依頼する。
その記事が新聞に掲載された5月18日の午後2時51分、遣り過ぎだと部長検事に 怒られたチュ検事の携帯に、チェ班長から電話が入る。

ここで、第3の取引の場所であるオープンカフェのシーンとなる。(70分)
この辺りから、チェ班長とチュ検事、チャン社長との関係が大きく逆転する。
5月19日の午前8時39分、刑務所に収監されていたイ・ドンソクが、自殺死体で発見される。
だが、映画を観ている者は、彼は自殺ではなく、誰に殺されたかも分かる。
そして、現場に駆けつけたチュ検事も、顔見知りのその犯人と目が合う。

一方、新聞報道により、監察が再びチェ班長の妹と義弟を逮捕し、捜査本部の中でチェ班長は、孤立する。
ストーリーを端折るが、念のためイ・ドンソクの遺体は、国立科学捜査研究所で検視されることになる。
そして、ラスト手前で、検視結果 が、チェ班長とチュ検事に文書で知らされるが、その内容は、2人が驚く内容だった。
しかし、映画を観ている私には、このネタって以前にもあったものであり、このエピソードを盛り込んだことにより、チェ班長とチュ検事の運命を大きく分けた、韓国社会が抱える問題のインパクトが弱くなったと思う。

そう、チャン社長を含めた3人の主役たちの最期がどうなったか。
これ以上、ストーリーを追うと、ネタバレになってしまうので、ここまでで止めるが、ヒントを1つだけ書いておこう。
それは、チェ班長と共に国立科学捜査研究所に行った部下の刑事が、チェ班長の運命の重要な鍵を握るということだ。その部下とは、5人の中で一番年上と思われるデホ刑事(マ・ドンソク )だ。


彼は、研究所を出た後、チェ班長から直帰を命じられる。
その夜は、4人の同僚刑事たちと焼き肉店で落ち合う約束で、その席に遅れるので肉を残しておけというメールを送る。
そのメールが、警察官人生の頂点を迎えた直後に、チェ班長を皮肉な結果に引きずり落とす

確かに、この映画は、韓国の警察・司法の腐敗・癒着を描いたというよりも、弱肉強食、さらには殴られたら殴り返す韓国社会の本質を突いた作品だ。
韓流純愛映画でしか韓国社会の一面を知らない(知ろうとしない)人たちは、このような作品を観ること自体を避けるかも知れない。
だが、一番近い隣国同士として、過去の不幸な関係を乗り越え、真のパートナーシップを築 くためには、直視しなければいけないのではないか。

こんな作品を作る映画人や、それをヒットさせる国民を擁する韓国。
対して、2度の原爆の被災や過去の巨大津波の被害すらも忘れ、直近の原発事故から2ヵ月も経っていないのに、浜岡原発の停止に疑問・異論を主張する政治家や、当事者である住民を擁する日本。
どちらが、グローバル社会で生き抜くことができるかだけは、はっきりしているだろう。

この文面だけを読むと、誤解を受けるのは必至であるので、一言、補足しておく。
もちろん、同列の比較を行うのであれば、映画関係者が、この韓国映画のように娯楽作の体裁を採った社会的な問題作をほとんど作らず、無害なだけのテレビ・ドラマの延長のような映画を乱発していること 、国民の多くは、そちらを喜んで観ているということだ。
しかし、リーダーシップが総理大臣以上に欠落している経団連の会長の昨日の発言や、浜岡原発が立地する御前崎市の主婦(子供はいないのか)が、事前に国から相談がなかったと言っていることの根底にある時代認識や日本人としての気質を問題にしたかっただけである。

なお、浜岡原発の即時停止と廃炉に向けた検討・対策については、3月から考えていたことで、4月17日付けの「ブレイキング・コラム⑨」で提案している。
今回の東日本大地震級の東海大地震が起きた場合の甚大な影響についても、4月7日付け「旧作評④」で書いたことだが、まだ認識していない方が多いようなので、次のことだけは繰り返し強調しておく。東日本大地震では、内陸側を通っている区間が多かった東北新幹線と東北自動車道の被災は、それほど酷くなく、2ヵ月も要しないうちに復旧できた。
しかし、東海大地震の場合は、まったく違う。海に近い区間が多い東海道新幹線と東名高速道路の破断の大きさは、復旧にどれだけの時間を要するかは、想定できない。そして、この2つの国土幹線は、完全復旧しないと、意味がないのだ。
さらに、連動して起きる可能性がある南海大地震が加わった場合は、四国南部・九州南部だけでなく、関西圏も被災を免れない。
この明白な予想を抱き得ない人たちの意見も聞いて、何ヵ月も議論している余裕があるとは、私には到底、考えられない。
下の画像は、映画のチラシです� ��


〔追記〕
本作を理解する上での基礎知識の1つである「日本と違って、韓国では犯罪発生の捜査段階から警官は、検察官の指揮を広く受ける」ということを12月8日付け「過去記事の後日譚・後編=新作評3本の補完と女性が嫌いな女性タレント」で解説しています。併せて、ご覧ください。



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